蟹座に学ぶ色々 - Things learned from Cancer -

■第5章 治療法いろいろ (Contents)

 前章において、私達ヒトがどのようなメカニズムで病気になるのか?という内容に触れてみました。ヒトも地球上で暮らす全生物の一員という観点から病気のメカニズムを考えると、 生きている以上病気になって当然、つまり完璧に健康な状態はありえない! という結論が出てきました。 「そんな事言ったって、無病で長生きする人だってたくさんいるじゃあないか!」 という意見が当然出てきます。 私も同じ意見です。
 では無病の人、つまり“健康な人”とはどのような人なのでしょう? 「■第3章 体の健康について学ぶ」の章において、 健康について少し触れましたが、前章の「■第4章 病気発生のメカニズム」の内容を踏まえて もう一度考えてみます。ヒトの進化の仕組みや、他の生物とのサバイバルなどの背景から、この地球上において生きている限り“病気にならない”ということが難しいことを前節で述べました。 しかしながら、ヒトの体はそのような過酷な環境の中で生物の三大欲求を遂行するために、細胞が集まって様々な器官を構成し、それぞれの器官がしっかりと機能していくことで、 ヒトという個体として正常なパフォーマンスを発揮できるようになっているわけです。「■第3章 体の健康について学ぶ」において、体の中には様々な役割をもつ器官があり、 各器官が有するフィードバックループの協調がとれ、恒常性が維持され、個体全体としての平衡が維持されることを述べました。つまり、健康な状態とは、体が有する各器官が滞りなく機能して、 個体全体としての平衡が保たれている状態ということが出来ます。人はなぜ治るのか(アンドルー・ワイル 著)の中で、著者は健康を以下のように表現しています。

―引用―
 <健康>とは<全体>である。すべてを包含し、すべてがほどよい秩序を保ってバランスという神秘な姿をとった、最も深遠な意味での<全体>である。 健康とは、単に病気でないということではまったくない。それは、人間を構成し人間をとり巻くあらゆる要素、あらゆる力が、ダイナミックに、 かつ調和的に平衡状態にあることなのだ。

 正にその通りだと思います。ヒトの体でも、機械でも、全体としての平衡が保たれていれば病気になったり故障したりしませんよね。
 しかしながら、私達は常に色々な事が変化している地球というフィールドで生活しているわけで、器官が構成するフィードバックループでは制御しきれない事象が生じ、 やがて個体全体としても平衡を保てなくなる事態に陥ることがあります。また、遺伝子の老化のプログラムによって、 自然と応答の悪くなる器官が生じて協調がとれない事態になることもあります。外部から細菌などが侵入して免疫システムが働き、 意図的に平衡状態からずらすといったこともあるでしょう。これらが病気というわけです。ヒトの体も平衡状態に戻そうと、保有するありとあらゆる機能を用いて頑張りますが、 平衡状態に達するまでに時間を要する事象が生じたり、一つの平衡のずれがまた別の平衡のずれの原因となってより深刻な事象に陥ったりした時には、 何らかの力を借りて元の状態に戻してやることが必要となります。これが、病気に対する治療です。
 大昔から、ヒトはどうしたら病気の不快な症状を回避できるか色々なことを考えていました。本章では、治療法諸々について記していきます。


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◆アロパシー (現在の主流医学、対症療法)

 私たちが風邪などひいたときに、「お医者さんにかかろう...」と言いますが、日本をはじめ大多数の国においても、そのお医者さん(医師)とはアロパシー医学に 従事する人たちを指します。医師の中には、これ以外の医学のアプローチを行おうと別の看板をあげる人もいますが、わが国において医学部を卒業して資格を得る法律で認められる 医師は、このアロパシー医学に基づく知識や技術を習得した人を指しています。
 アロパシー医学とは一言でいうと対立療法のことです。発熱があると解熱のためにアスピリンを服用する、高血圧の治療には降圧剤を投与するというように、 症状に対する対立物を用いて治療する方法です。

なぜアロパシーかということについては、医療界における歴史的背景を説明する必要があります。人はなぜ治るのか(アンドルー・ワイル 著)の内容を参考に概略を示します。 (かなりアロパシー医学を皮肉った内容となりますが、私感ではなく文献の内容を要約したものですので、その点ご理解願います。ちなみに、 参考文献の著者も歴としたアロパシーの医師ですのでお含みを...)

 辞書において、アロパシー(allopathy)を検索すると、“対立療法、逆症療法”とあり、対義語として、後で説明するホメオパシー(homeopathy)”同毒療法、 同種療法”があります。
 時は1780年頃〜1850年にかけての70年、当時の正統的医学は女人禁制、男性優位、エリート主義が横行する中で教育され、英雄医学と呼ばれていました。 この医学の指導者だったウィリアム・カレンは疾病一元論者で、「すべての症状はひとつの原因、“悪い血液”から生じる」という理論が主流となっていました。 よって、病気の治療法は瀉血(血を抜くこと)が一般的となっていました(体の中の悪いものを体外に出すことが大切という理屈で)。瀉血は一度の施術で1パイント (およそ470ml)の血液を抜き取り、6週間で8パイント(3800ml)もの血液を抜き取ったとの記録もあるとのこと。また、腸の内容物を排泄させる瀉下も高く評価され、 瀉下剤として甘汞[かんこう](塩化第一水銀)が用いられていたそうです。 (当時の人は、病気になると血を抜かれたり、水銀中毒症を人為的に起こさせられ、 涎がダラダラ・・・ という過激な治療にさらされていた様です。)
 これに対し、この時代に生きたドイツ人医師、サムエル・クリスチャン・ハーネマンは、この治療法に対し疑問を抱き、特に薬物療法において、 薬理作用を実験的に確定してこそはじめて誤り無く処方できるのでは?と独自の薬物実験の規定を作り上げ、当時よく使われていた薬についての立証をとりました。
 ハーネマンは実験において、「健常者に特定の症状を起こす物質には、それと類似した症状を呈する病者を治す効力がある」ということを発見し、 「類は類を治す」という治療法を確立します。 彼はこの治療法を「その病気に似たもの」を意味するギリシア語から造語して、「ホメオパシー」と名づけました。 (ホメオパシーの詳細は後述します。)また、症状の対立物を使って治療する治療法を、「アンティパシー」と名づけました。  そして、当時の正統派医学だった英雄医学に対しては、症状に対して一貫した論理性を欠く薬を処方する医学と考え、皮肉って「その病気とは別のもの」を意味するギリシア語から 「アロパシー」と名づけたのだそうです。
 現在では、辞書をひくとホメオパシーの対義語として出てきますが、もともとはこんな背景があったのですね。
現在の主流医学のアロパシーは、昔の英雄医学を継承しているためにアロパシーという名が残っているというわけです。
 この後、アロパシーの一派は、産業革命に端を発する科学技術を次々と取り入れ、検査分析方法、製薬技術、麻酔、高度な外科療法などを開発し、 抗生物質の開発に伴う感染症に対する勝利、ホルモン剤、ビタミン剤などの驚異的薬剤の発明など、数多くのすばらしい実績を残して発展の一途を辿り今日に至ります。
 また、アロパシーの中には大きく内科と外科というルーツの異なる2つの会派があり、病気に対する治療法が異なります。 内科は、紀元前460年〜370年頃のギリシアの名医、ヒポクラテスに端を発すると言われ、ヒポクラテス学派の医師たちが「何よりもまず、 患者を傷つけないこと」というヒポクラテスの教えを守り、築き上げたもので、治療には主に薬を用います(発熱があると解熱のためにアスピリンを服用する、 高血圧の治療には降圧剤を投与するなど)。外科は、中世ヨーロッパの床屋さんで行われていた治療がルーツであると言われ、臓器の外傷を修復したり腫瘍摘出といったように、 治療に手術を用います。臓器移植や帝王切開など大変高度な技術を駆使して、ヒト自体の修復能力から完全に逸脱した緊急事態からも復旧させることが出来ます。
上記のように内科と外科とに二分できますが、病気に対する考え方には大差はありません。アロパシーは、科学的なアプローチにより発展した背景から次のような特徴があります。 (“科学的なアプローチ”に対しては、別途記載する予定です。)

(1)病気の捉え方と治療方法
 アロパシーの病気の捉え方は、概略すると下記の様になります。
@ある症状が発した場合、様々な検査を行って、発症の原因部位を特定する。
 他の治療法においても、ある症状を発症した際に原因となる事象の特定を行いますが、特にアロパシー(現代医学)の検査において特徴的なことは、 すべての検査結果が人の目において定量的に確認できるといいうことが挙げられます。よって患部の状況が非常に明確に分かります。
−−例−−
a)血液検査をすれば、体内の血球量、血糖値、タンパク質の含有量、抗体反応、肝機能、etc.
b)一般X線(レントゲン)撮影、CT、MRI、NMR、ラジオアイソトープ 等による患部の特定、etc.
c)病理検査による、患部組織の特定、etc.

 検査によって異常値を示す要因から、体の状態や患部の特定などを明確にすることができます。科学技術の発展による検査技術の向上、病理メカニズムの解明などが進むにつれ、 より細部にわたる患部の特定が可能となってきました。

A原因部位を特定できたら、疾患を起こす原因に対抗する処置を行う。
 アロパシー(現代医学)の特徴として、患部の特定ができたらそれに対抗する処置をとる、ということが言えると思います。
−−例−−
a)尿検査や血液検査により糖尿病であることがわかった。そこで、インスリン注射を行う。(参考:インスリンは膵臓から分泌されるホルモンです。骨格筋、脂肪細胞、 肝臓に作用して、@血中血糖(グルコース)の細胞内への取り込みを促進、グリコーゲンへの変換を行い血糖値を下げる Aグルコースの脂肪への変換を促進  Bアミノ酸の細胞内への取り込みを促進等の働きがあります。分泌が不足すると、上記が阻害され細胞代謝が円滑に行われなくなるため、血管や神経、腎臓、 目など全身の様々な組織や機能に障害を来します。)
b)泥んこ遊びで指先を切傷し、ろくに消毒もせず放置しておいたら、高熱や腋窩リンパ節(腋の下のリンパ節)の腫脹が確認され細菌感性したことがわかった。 そこで、抗生物質を服用する。
c)頚部(首)にシコリがあり、CT、MRI検査やシコリ細胞の病理検査を行った結果、喉頭がんであることがわかった。そこで、手術による腫瘍の切除と、 予後の再発防止のため放射線治療、化学療法を行った。
d)腰痛がひどく、足も痺れる。MRI検査の結果、腰椎椎間板にヘルニアがあることがわかり、そこで、ヘルニア部を切除する手術をした。

 上記は、あくまでも一例で治療法も数多くある中の一部です。 しかし、共通する考え方として、症状に対して、それに対抗する処置がとられていることが 理解していただけると思います。

(2)優れた点
@高度な検査技術
 アロパシー(現代医学)の病院で受けられる検査技術は相当高度なものです。患者の主訴となる症状の直接的な原因を、科学的な(誰もが共通の理解を得られる) 目で捉えることができます。
A高度な救急対応
 交通事故で胸を強打し、呼吸もままならない、また血痰も出る! というような緊急事態に対し、右に出る医療技術を持った医学は他にありません。 検査により肋骨の骨折状況や肺への損傷、手術による適切な処理など、本来の生活からかけ離れた突発的な自体が疾患の原因の場合は、命を落としかねない緊急事態からも 救ってもらえる可能性があります。
B科学の治療への応用
 現代科学で解明できる原因の明らかになった事象に対して、対抗策が確立された場合は、医療現場へのフィードバックもすばやく行われています。 抗菌薬や抗ウィルス薬など、他の生物との軍拡戦争に対抗する手段も次々と開発されています。
 また、優れた科学技術の医療現場への応用も盛んです。 患者への負担の少ない手術用具、超精密な手術器具の開発や、人工心臓、透析機器、人工骨など、 本来ならば生存すら難しい患者を救ったり、その生活をサポートしたりすることを可能にしている。

(3)欠点
@治療は、検査で明らかになった症状にのみ、対抗処置がとられる。
 症状の明らかな突発的自体においては、優れた点で述べたような輝かしい治療成績を残すアロパシーですが、検査で特異的異常が確認されない症候群、慢性病については、 本質的な治療ができない。
−−例−−
 a)肩こりに湿布や鎮痛剤しか処方されない。(痛みは緩和されるが、痛みの原因はそのまま)
 b)アトピー性皮膚炎で、ステロイドホルモン、消炎剤が処方される。(炎症という症状は緩和されるが、炎症の原因は不明のまま。[科学的な原因解明が未だ])
A原因不明の疾患に対し、本質的な対処ができない
−−例−−
 a)高ステージに進行した癌患者を治せない。(手術、化学療法、放射線治療等 処置できる限界までは、癌を摘出、減量する処置をするが、本質的な改善はできない。 あくまでも在るものを片付けるだけである。それを高度な技術で行っているにすぎない。)
B病気のみ相手にする
 上記@、Aをまとめるとこのように要約できるかもしれませんが、本章の冒頭でも述べたように、“健康な状態とは、体が有する各器官が滞りなく機能して、 個体全体としての平衡が保たれている状態”という考え方からすると、アロパシーの対症療法は健康を維持するという観点には全く寄与していません。
 アンドルー・ワイル医師は、[アロパシー医は病気が起こってからその病気と闘うことを仕事の大半としており、しかも、その病気の引き金となった作因 (種々の検査結果から明らかになる異常)を病気の真の原因だと誤認して、そこに戦いを仕掛けている]と警鐘を鳴らしています。(例えば、U型糖尿病の患者に対し、 インスリンが不足しているから、インスリンを投与するという治療しかしない様なことです。)
C対症と銘打って、無用の投薬、リスクの高い手術を行う
 戦後、積極的にアメリカの技術が導入された頃に生まれた人の幼年期に、扁桃腺が腫れたことに対する治療で扁桃腺を切除された経験がある人はたくさんいると思います。 現在では扁桃は体の免疫系に属する大切な器官であることが明らかになったが、当時は明らかになっていなかった。 “健康であること”という一貫した思想の無いアロパシーにおける医療では、対症と銘打って「明らかになっていないもの=関係ないもの」として手術で除去されたり、 薬の影響を鑑みずに投薬治療を行ったりする。

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◆ホメオパシー (同毒療法、同種療法)

 アロパシーの節でも記しましたが、ホメオパシーの現在の解釈は、アロパシーの対症療法に対する反義語の同毒療法、同種療法として定義されます。
 ホメオパシーは、ドイツ人医師のサムエル・クリスチャン・ハーネマン(1755〜1834)によって考案され、彼の著書である「医学原論」が出版された1810年に設立したと されているそうです。ハーネマンは、当時、主流医学とされていた英雄医学(瀉血や瀉下)に対し疑問を抱き、特に薬物療法において、薬理作用を実験的に確定してこそ はじめて誤り無く処方できるのでは?と独自の薬物実験の規定を作り上げ、当時よく使われていた薬についての立証をとりました。彼は実験において、 「健常者に特定の症状を起こす物質には、それと類似した症状を呈する病者を治す効力がある」ということを発見し、「類は類を治す」という治療法を確立します。  彼はこの治療法を「その病気に似たもの」を意味するギリシア語から造語して、「ホメオパシー」と名づけました。
 また、ハーネマンが行った実験により、薬の効果として以下のような法則があることを発見し、ホメオパシーいよる治療の基本原理として引き継がれています。
 a)類似の法則
 b)無限小の法則
 c)慢性病の法則

 ハーネマンが薬理作用を確認するための実験においては、次のような原則に則って行われています。これは、薬理作用を確認するための良識として、 参考文献の筆者(アンドルー・ワイル氏)は捕らえています。内容は以下の様なものです。

・ハーネマン薬理作用確認実験の原則
 @薬の効力と新の効能をつきとめる目的で、健康体に対して厳密な実験による検査が行われなければならない。
 A薬は混ぜ物の無い単味の状態で服用されなければならない。
 B薬物の実験はすべて単独に、完全に純粋な状態で行われなければならない。(異物を混合しない)
 C実験期間中の食事は厳密に制限しなければならない。
 D性差確認のため、薬は必ず男性、女性双方に対して実験しなければならない。
 E定量投与による効果が現われなければ、毎日ほんの少しずつ加えていき、その効果によって健康状態に変化が認められるまで続ける。(人間の多様性を鑑みるため)
 F人間の健康を左右する単味薬の純粋な効能を立証し、その薬によって健康人に人為的に病気あるいは症状を起こさせることを立証する最良の方法は、健康で偏見がなく、 感受性豊かな医師が最新の注意を払いつつ、自分自身の体で実験することである。

 この原則に則って、ハーネマンは当時よく使用されていた薬の効能を次々と立証していきました。この実験を行う中で発見された経験則が前述したホメオパシーの三大法則となり ます。それぞれの内容について要約して説明します。

a)類似の法則
 当時のヨーロッパではマラリアが流行しており、マラリアが原因の間歇熱に対してキナの木の皮が特効薬として用いられていました。当時の主流医学だった英雄医学を 指導していたウィリアム・カレンはキナの木の皮が苦くて収斂性があるから健胃剤として効くのであると考えていました。これに対しハーネマンは、実験によりキナの木の皮よりも 苦くて収斂性のある強い薬を調合し、その薬が間歇熱に対して無効であることを証明します。
 このような実験の中、健常者に特定の症状を起こす物質には、それと類似した症状を呈する病者を治す効果があることを発見し、「類は類を治す」というホメオパシー療法の 皮切りになりました。
 「類は類を治す」という法則に従い患者の治療にあたっていたハーネマンは、やがて薬理効果に二相性があることを発見します。投薬後に現われる初期症状の後に、 その反対の症状が現れるというものです。例えば、麻薬として知られるアヘンを服用すると、初期症状として多幸感や興奮が現れますが、その後、抑うつ状態が現われます。 ハーネマンはその二相性を作用−反作用と解釈し、初期症状は薬の直接的作用、後の症状は均衡を回復しようとする体が起こす反作用と捉えました。ホメオパシー療法は この様に病気に抵抗する体の反応を引き出すことによって効果をあげているという仮説が確立されます。

b)無限小の法則
 ハーネマンは類似の法則における初期症状がどうしたら軽減されるか?をテーマに実験を更に進めますが、初期症状の軽減をはかり投薬量を減らしてみました。 ところが、予想に反して「類似の法則」の効果は以前にもまして強くなるという現象が起こります。この実験結果をもとにホメオパシーの第二法則である 「無限小の法則」が生まれました。また、彼は薬理実験の原則でもあった様に、投薬による患者の反応を確認するためホメオパシーの調剤は一度に一種類という単味の法則を 定めました。

c)慢性病の法則
 ハーネマンはホメオパシーの二大法則と単味の法則、また、実験により次々に明らかになるプルーブ(薬効作用)を駆使して新しいタイプの医師として道を開拓していきます。 しかし、開業して20年程経った時に、ホメオパシーの治療で急性症状が良くなってもいずれ同じ症状が再発したり、別の愁訴が現われるケースも多く、ホメオパシーの治療が 必ずしも常に有効でないことに気づきます。彼はこれを説明するため、「慢性病の法則」を付け加えます。これは、治療しても治らないのは以前に受けたアロパシーの治療によって 体の奥に生じた何らかの障害が原因となっているという理由です。「慢性病の法則」は、後にハーネマンの弟子たちにの間でも大きな論争を呼び起こし、 三大法則の中でも最も問題の大きな法則として捉えられています。

(1)病気の捉え方と治療方法
 まず最初に、筆者はホメオパシーの治療を受けたことが無い旨、コメントさせていただきます。“人はなぜ治るのか (アンドルー・ワイル 著)”やホメオパシーを推進する 団体が開設するHPなどの記述を参考に、説明をしていきます。
 アンドルー・ワイル氏の文献をベースに説明すると、ホメオパシーは病気(発症している症状)が、何の物質によって引き起こされている症状か?ということを探し当てます。 要はホメオパシー「類似の法則」のある特定の症状を引き起こす物質を探すのです。ホメオパシーの問診においては、暑がりか寒がりか? どんな姿勢で寝るか?  脂身の肉が好きか、赤身の肉が好きか? 晴れた日と曇りの日ではどちらが気分がいいか? 食べ物で特に好きな香味は? など、主訴以外の細かな事項について問われ、 患者の日常生活における諸症状を明らかにします。(ちなみに、上記の質問はアンドルー・ワイル氏が“食道痙攣”[アロパシーの病名]の所見でホメオパシーにかかった時の 問診の一部です。)
 これらの問診の結果を元に、健常者にこの様な症状を引き起こす物質を調べます。この時、ハーネマン以来、蓄積を続けてきた試薬表が用いられます。 物質が特定できたら症状により「無限小の法則」を元にした成分を微小に含んだ薬を処方するというものです。
 ホメオパシーでは上記のように、病気を“食道痙攣“というある部位の異常として特定するのではなく、特定の物質が引き起こす諸症状のパターンを見つけることに専心します。

(2)優れた点
 ホメオパシー治療における投薬は無限小の法則に則った極微量の成分を含むショ糖顆粒や液(レメディという)を用います。このため、アロパシーで使用する薬の様に、 肝機能や消化管に重篤なダメージを与えるような副作用が無く安全です。ホメオパシー治療による病気の治癒例は数多くあり、無限小の法則に基づいて処方されたレメディが 体の自己回復能力を活性化させて、ヒトの体が持つ本来の回復機能を利用して病気を治すというからくりは本当のようです。

(3)欠点
一番大きな欠点は、下記の様に、この治療に関するメカニズムを科学の目で解析、評価できない点です。
@生理学的な機序が不明 (不明だと必ずしもいけないか? という課題もあるが)
 ホメオパシーの問診(インテイクという)からレメディの選択と、ハーネマン以来継続して築きあげられた経験則を元に実施されるが、ホメオパシーのレメディの生理学的な 機序を説明できない。
Aレメディの効能
 ホメオパシーの無限小の法則は薬を希釈すればするほど強くなるという性質であったが、この原理に基づき薬を薄めていくと物理学の法則では説明できない矛盾が生じる。 アボガドロの限界が有名な話である。実際にホメオパシーで用いられるレメディは、この限界をはるかに超えたもの(希釈液中に薄める前の物質が含まれているとはいえないもの) も数多くあり、なぜそれが効果を発揮するか?といった点については、科学の物差しでは説明し難い。

―参考―
(1)アボガドロの限界
 高校の物理の教科書に記載されていると思いますが、ある物質1mol(モル)には6×1023の分子が存在しますが、この6×1023のことをアボガドロ数といいます。 ホメオパシー無限小の法則の様に、特定の物質をある物質で希釈すると、当然のことながら希釈液中の特定の物質の濃度は下がります。つまり、mol数が下がるわけです。 どんどん希釈していくと、もともとあった分子の数はどんどん減って、10−24という濃度になった希釈液では計算上もともとの分子を含まない液となります。 これをアボガドロの限界といいます。
(2)科学の物差し
 科学的な法則をもとに、物事を説明する物差しです。 これを使うことで、この世の中で起こる様々な現象を誰もが納得できる、目で見える形で説明することが出来ます。 今日の技術発展の裏側には、この科学の物差しが欠かせないのですが、時としてこれが裏目に出ることがあると私は思います。この点については、後に説明します。 (文書が出来ましたら、リンクを挿入します。)


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◆オステオパシー(骨療法)

 オステオパシーは、アンドリュー・テイラー・スティル(1828〜1917)というアロパシー医師によって考案された療法です。参考文献“人はなぜ治るのか”で紹介される スティルの自叙伝によると、スティルは少年時代から人骨に異常な興味を示し、アメリカ先住民の墓を発掘しては、骨格がどうなっているかを調べたとのこと。 スティルはアロパシーの医師ではありましたが、治療において毒性の強い薬物を用いることに強い反発を感じ、薬を使わない治療法がないかという欲求を持っていました。 また、オステオパシーは、「骨マニュピレーション」という技法を用いて骨を矯正し、血液の流れや神経機能をバランスを回復させることによって治癒を促すという方法ですが、 その技法の確立の裏には彼の“骨好き”という特異的興味と、薬物に対する反感があい重なっていたとの事です。自叙伝には、こんな逸話が紹介されています。

 [10歳頃のある日、頭が痛くなったことがあった。父の畑にあった二本の木を利用してブランコをつくったのはよかったが、頭がガンガンしてブランコを漕ぐ気には なれなかった。そこで、ブランコのロープを地面から20センチほどの高さにさげて、毛布の端をそこにかけ、それを動く枕にして地面に横になった。ロープに後頸部を乗せて、 背中をまっすぐに伸ばしてあお向けに寝たわけだ。すると何となく楽になって眠り込んでしまい、すぐに目が覚めると、頭痛はすっかり治っていた。当時は解剖学の知識もなく、 一本のロープで頭痛が収まり、随伴症状だった腹痛まで治ってしまうという理屈がさっぱりわからなかった。とにかく、それがわかってからは、具合が悪くなりかけるといつも 後頸部をロープで吊ることにした。そんな療法を20年もつづけているうちに、やっとその理由がわかるようになった。大後頭神経を圧迫してその働きを一時停止させ、 動脈血をうまく静脈に送り込むことによって楽になったのだということが理解できたのである。](“人はなぜ治るのか”より抜粋)

 この様な背景をもとに、スティルは色々な病気の患者にマニュピレーションを施して、病人の治療に好結果が得られるということを発見します。 気を良くしたスティルは1874年にベイカー大学にその旨を報告するも認められず、憤激したスティルはミズーリ州で自らの治療院を開業します。 これが、オステオパシーのスタートのようです。
 スティルは開業した治療院において骨マニュピレーションを用いて、様々な感染症の治療にも取り組んだそうです。肺炎、丹毒、腸チフスなど、骨マニュピレーションの 治療のみで治し、たくさんの治癒実績を積み上げて、やがてたくさんの弟子が参じるようになります。
 1829年にはオステオパシー教室を開き、それが発展して「アメリカ・オステオパシー・スクール」の開校につながり、たくさんのオステオパシードクターを輩出しました。

(1)病気の捉え方と治療方法
 まず最初に、筆者はホメオパシーと同様オステオパシーの治療を受けたことが無い旨、コメントさせていただきます。“人はなぜ治るのか (アンドルー・ワイル 著)” などの記述を参考に、説明をしていきます。
 オステオパシーは上述したように、骨マニュピレーションという技法を用いて歪んだ骨格を矯正することで病気を治す治療法です。つまり、不調の原因には、 骨格に何らかの歪が生じており、これを矯正することで体内の血流や神経の機能を正常化させ、体を復調させるという方法です。
 疫痢と呼ばれていた致命率の高い小児の伝染性下痢を治療したときの逸話が参考文献で紹介されていたので、引用、下記します。

患者は4歳の男子、衰弱して、直腸からの出血も見られる状態。
[私は子供の背中に手を置いた。・・・・・腰のあたりは非常に暖かく、むしろ熱いぐらいだったが、腹部は冷えていた。・・・・・頸部と後頭部は熱くほてり、 顔は鼻も額も冷え切っていた。・・・・・後頭部から手技を施しはじめたが、ふと、押圧と摩擦によって熱いところを冷たいところにもっていけるのではないかという気がした。 それを試みているうちに、患者の脊椎に沿った筋肉と靭帯に硬結しているところと柔らかいところがあり、腰部には高度の鬱血が見られることもわかった。 右のような考えに基づいて数分間の手技を施し、母親にこういった。あしたになったら子供の様子を知らせなさい。あしたもまだ私の手が必要なら、 打つ手はいくらでもありますから。母親は翌朝早々にやってきて、子供が元気になったと報告した。]“人はなぜ治るのか (アンドルー・ワイル 著)”より引用

 上記の様なイメージです。なんとなく自分のイメージでは、指圧のプロフェッショナルが行う治療にも思えます。

(2)優れた点
 参考文献の引用ばかりで申し訳ありませんが、オステオパシーの創設者スティルが、アロパシー医やホメオパシー医から「薬を使わないオステオパシーに何が出来るか?」 という詰問に対して答弁した内容が、オステオパシーの誇れる優れた点を要約していると思いましたので、紹介させていただきます。

[よろしい、いい質問だ。医者どもにいってやれ。まず落ち着いて、2、3の真実に耳を傾け、しかるのちに質問せよと。「薬を使わずに何ができるか」だと?  われわれは甘汞の代用品などももちあわせておらん。オステオパシーは歯をボロボロにしたり、胃や肝臓はおろか、いかなる内臓の組織・器官をも傷つけたりはせぬ。 視力障害をきたし、腫瘍を増殖させる恐るべき毒薬、ベラドンナ(鎮痛・鎮痙剤)の代用品も一切もちあわせておらん。・・・・・中略・・・・・ それらは毒物である。 それだけを心得ていれば、それでよろしい・・・・・・。
 では質問にお答えしよう。薬を使わずに何ができるか?人体の骨格を矯正することができる。だが、神の御心によってつくられ、御心のままに動いている完全な機械が 効率よく作動するすべく定められたこの物質界からは、何ものもつけ加えたり、投入することはできん。人体の隅々に至るまで、日々そこにかたちと力を与え、 生きて動くことによって生じる一切の老廃物を排泄させているもの、また神の御心なのである。
 完璧に矯正された人体こそは、新鮮な血液を大量につくり出し、必要なときに、必要なだけ、必要としているところにそれを運んで、生命の営みを効率よく支える。 これが、薬のかわりに、心あるオステオパシー医が行うことなのである。]“人はなぜ治るのか (アンドルー・ワイル 著)”より引用

 上記を読むと、スティルが開発したオステオパシーの力強い治療理念が伝わってきます。

(3)欠点
 一番大きな欠点は、ホメオパシー同様に、この治療に関するメカニズムを科学の目で解析、評価しにくい点です。なぜ骨マニュピレーションで細菌感染が治癒にいたるか? など、正確な機序の説明が難しいのが現実です。
 スティルが生きていたときには、オステオパシーは薬を一切使わず、骨マニュピレーションの手法のみで病気を治すという手技が徹底されていたようですが、スティルの没後、 科学的医学の全盛期になると、多くのホメオパシー医がそうだったように、オステオパシー医も既成医学からの認知ほしさに、治療方法を勝手に変更する者が出てきたようです。 現在では、オステオパシー医も薬を使うし、手術も行うし、実質的にアロパシー医と何ら変わることがなくなったと、アンドリューワイル医師は指摘しています。
 アンドリューワイル医師の著によると、現在のアメリカにおいては、オステオパシーの学校において骨マニュピレーションの手法をせっかく学んでも、 ほとんどのオステオパシー医は昔ながらの手技を使わず、薬剤、手術をはじめとする治療に頼っているのが現状のようです。
 日本においては、いくつかの病院においてオステオパシーが取り入れられたり、柔道整復師の治療院(接骨院や整骨院の類)において柔道整復術と併用されたり、 オステオパシー研究所というような看板において施術を行っている療術院があるようです。

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◆カイロプラクティック(脊椎に特化した骨療法)

 カイロプラクティックは、ダニエル・デービッド・パーマー(1845〜1913)によって創設された治療法です。パーマーは医師ではなく、専門的な教育を受けた人でもなく、 骨相学と心霊研究が昂じて開設した「磁気治療スタジオ」で治療を行う人だったようです。パーマーは、病者を治すのが天職であると悟って、 病気の背後には共通する一つの原因があるという考えを持ち、寝食を忘れてそれを探求するといった生活をしていたとのこと。
 パーマーは、そのスタジオで様々な人を治療していたようですが、自叙伝によると次の二つの治癒例をもとに「あらゆる病気の95%は椎骨のずれが原因である」 という結論を導き出し、これがカイロプラクティックのスタートのようです。
 一つは、17年もの間難聴だった人の治療において、[窮屈な姿勢で身を屈めた時に、何かが背中を走るような感覚とともにそれ以来耳が聞こえなくなった]という 発症のきっかけに着目し、椎骨のゆがみを検査し、それを元に戻したところ耳が聞こえるようになったというものです。
 もう一つは、症状がはっきりしない心臓病で、椎骨を矯正するという治療を行い治ったというものです。
上記の話しを聞くといまひとつ腑に落ちませんが、参考文献の著者であるアンドリューワイル氏も、“カイロプラクティックは、パーマーが万病に共通する原因と治療法を 発見したと信じたときにはじまる。”と記しています。
 ともあれ、政治的な采配が長け、アメリカにおいては、アロパシー、オステオパシー、ナチュロパシー等と並んでドクターの学位も認定される立派な治療法となっています。

 病気の捉え方、優れた点、欠点について、要約すると下記のようになります。簡単ですが、悪しからず...

(1)病気の捉え方と治療方法
 上述したように、病気の原因は椎骨の歪みであると考え、それを矯正することにより治療します。

(2)優れた点、欠点
 優れた点として、薬や手術など行わなくても、椎骨の矯正により症状の緩和や治癒に導くことができることが挙げられます。@交通事故による後遺症で、アロパシー医によって 処方された薬剤を飲んだり、牽引治療をしたりしても一向に回復しない痛みがカイロプラクティックの治療を受けて一発で治ったり、Aどこの病院に行っても緩解しなかった 腰椎のヘルニアによる痛みが消えたとか、治療の実績はなかなかの様です。自分もカイロプラクティックによって腰痛の治療を受けたことがありますが、術後は症状が軽減した記憶があります。 しかしながら、カイロプラクティックによって治ったという確実な症例データが無いのが現実のようです。偏見の無い研究者によるこの治療法の研究が見当たらないと、アンドリューワイル氏は文献で記しています。
 欠点は未熟な術者による矯正術によって、かえって症状が悪化してしまったり脊椎を損傷したりすることがあること、脊椎の検査のためにX線撮影が頻繁に行われ、 患者を多量の放射線にさらすこと(アメリカのカイロプラクティック医による治療が主、日本ではX線を使用できる病院においてカイロプラクティックを取り入れているところは稀) などが挙げられています。

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◆ナチュロパシー

 ナチュロパシーは、ホメオパシー、オステオパシーやカイロプラクティックの様に一つにまとまった教義から派生したわけでもなく、ハーネマン、スティル、パーマーのような カリスマ的な開祖から創始したわけでもなく、健康と医学に対する一定の信念を共有する各会派の人たちが集まって、いつの間にか形成されてきた医学であるとのこと。
 創始者はドイツ人医師であるベネディクト・ルスト(ラストと訳されている文献もあります)(1872〜1945)とされており、彼がアメリカ、ニューヨーク市にナチュロパシー大学を創設した 1900年がその始まりといわれています。
 ルストは当時の正統派の治療法に不服を持っていて、自然に内在する治癒力を確信していたルストは手術や強力な薬物に頼らない自然に即した治療法を探していた。 ルストの生まれたドイツや、オーストリア、スイス等のドイツ語圏内ヨーロッパは昔から保養地や温泉療法が盛んで、ルストが代替療法を探していた頃はこの様な保養所が盛業中であり、 彼も天然の温泉に入る、温水や冷水を体の各部分に注ぐ、ミネラルウォーター断食をするというような多彩な水療法に目をつけて治療に取り入れたそうです。 ルストが基礎として取り入れた水療法は、クリスチャン・クナイプ神父(1821年〜1897年)が自身の重篤な肺疾患を治癒に導いた方法であり、素足で冷たい川の中を歩いたり、氷水浴を行ったり、 日光、新鮮な空気、薬草も取り入れるといったものだったようです。ルストは、ドイツからこの療法を広めるためにアメリカに移住してクナイプ式の水療法を普及し、後に そこに集まってきたホメオパシー医、薬草医などの自然治癒力を信じる自然療法各派の治療法も取り入れて、その総合的な治療法を「ナチュロパシー」と名付けた。 その後、1900年に「アメリカ・ナチュロパシー・スクール」(前述のナチュロパシー大学)を設立し、1902年には初の卒業生を輩出するにいたります。

●利点と問題点
 まず最初に、筆者はナチュロパシーの治療を受けたことが無い旨、コメントさせていただきます。参考文献“人はなぜ治るのか (アンドルー・ワイル 著)”をもとに要約していきます。

(1)利点
 アンドルー・ワイル氏は、あるグループがメキシコを旅行中に流行性肝炎を発症した中での治癒例を例に挙げています。現代医学では、肝炎にかかったときの治療法として、 炎症を起こしている肝臓に余計な負担をかけないように安静にしている以外にこれといった治療方法がないそうです。 そのグループはメキシコ南部を旅行中に何らかの原因で肝炎を発症し、 黄疸や濃褐色の尿、粘土色の大便など、次々に肝炎特有の症状を呈して発症したようです。しかしながら、ナチュロパシーを知っていたグループの一員は、仲間が肝炎特有の症状を呈することから 遅れて自分も初期症状が現れると、すぐに自身の体で起こっている事態の意味に気づき、食事を取らず、温泉に入って、ミネラルウォーターをたくさん飲み、ひたすら安静、断食、洗浄につとめる といった行動をとったとのこと。すると、一度は濃褐色の尿、粘土色の大便が出たものの黄疸が出ることは無く、それから慎重に日常生活に戻っていけたそうです。その後も何の症状も出ず、 自身で防衛力を高めるナチュロパシーの手法が役に立った例として挙げられています。
 ナチュロパシーの起源となったクナイプ神父の事例もそうですが、このような自然治癒力は明らかに現実に存在する力として認められ、数多くの事例もあります。しかしながら、 これほど科学が進歩した時代でありながら、なぜ自然治癒力そのものが正式な医学大系の基盤になりえないのか? ということをアンドルー・ワイル氏は疑問視しています。 そういわれると、確かにそうですね。

(2)問題点
 アンドルー・ワイル氏は、次の様な問題点を指摘しています。(日本ではナチュロパシーはほとんど普及していないので、ここで記述されている事項がほとんど馴染みがありませんが...)
 ナチュロパシー医の多くが利用している診断法に毛髪分析というものがあり、患者の毛髪をサンプルとして患者の栄養状態やミネラルなどの量が正常値からどれくらい逸脱しているかを測定して、 その検査結果をもとに食生活上の注意点や必要とされる栄養補助食品などのアドバイスをするといった手法が用いられているそうです。一見理にかなった方法のようにみえますが、 体の状態が必ず毛髪の成分に関与しているか?などの証明がなされているわけではなく、意味があるものかどうかという疑問が残るとのことです。


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◆東洋医学

 西洋に対する東洋というと、中国やインドなどのアジア全体が含まれますが、東洋医学でいう東洋とは中国を指し、 中国において発展してきた医学を指しています。東洋医学は、現在のアロパシーやホメオパシーなどの医学に比べて飛躍的に 長い伝統を持つ医学で、少なくとも3000年前に始まり10世紀から13世紀ごろには真の科学として取り扱われ、 現代科学の発展によって衰微した現在においても中国をはじめ世界各国で営まれ、最近は科学的研究にも後押しされて広く 復調の兆しもみせています。
 復調のきっかけとなった出来事は、1972年のニューヨーク・タイムズ紙の1面を飾った鍼麻酔の記事が有名です。 革命後の中国へとアメリカから公式に訪問した一団の中に同誌の有名な記者がいて、その記者が中国で虫垂炎の手術を受ました。 その際、患部から離れた部位に鍼をうって痛みを緩和させる治療を受けて、中国の鍼に卓効があることを自ら感じ取り、 紙面で報じたことといわれています。その後、アメリカ国内においてアロパシー医学に見切りをつけ必死に代替療法を探していた 患者達によって世論が盛りたてられ、医師たちも東洋医学に目を向けて本腰で研究を始めました。紙面を飾った虫垂炎の鍼麻酔についても、 鍼刺激が脳内のオピオイド(麻薬鎮痛物質)の分泌を誘発させることが科学的に証明され、現在では裏づけのとれた事例として 認知されています。
 さて、東洋医学とはどのようなものか簡単に説明していきます。東洋医学の一番の特徴は、人を取り巻く自然の色々な事象や 変化も含め、人が人を取り巻く宇宙全体の仕組みの中で活動を営むものとする「天人合一思想」をとっていることです。数万年来、 定着農耕を主要な生活手段としてきた中国の人にとって、四季の変化が正常に運ぶかどうかは切実な関心事であり、 この季節の変化があらゆる生命活動に影響を及ぼすことを体感的に理解していました。この四季の変化やあらゆるものの変動、 変化は、エネルギー「気」をもって行われると解釈し、いわゆる「気の思想」が生まれます。“人は生きてゆくために必要な食物も 空気も、すべて自然界に頼っている。人間の生命活動の源は天と地の産物である。”というような「天人合一思想」と、 これら産物すべてに宇宙のエネルギーが注がれ通っているというような「気の思想」が融合した実に哲学の領域にもベースをおく 医学であるということができます。
 また、上記のような哲学的思想をもとに、下記のような理論的解釈を加えて人の営みや病気を捕らえます。

●陰陽学説
 陰陽学説とは、物事の2極性についてまとめられたものです。昔の中国の人は、天人合一という大自然の営みを重視した思想の中、 万物の営みに存在する2極性に気がつきます。例えば、上があれば下がある、末端があれば中心がある、昼があれば夜がある、 明があれば暗がある、等です。このように、存在のあらゆる相には“陰”と“陽”という二つの対立的側面があることに気がつきます。 これらの陰陽の性質は、物質、時間、場所をはじめとする創造のあらゆる局面に存在します。これより、あらゆる事物の陰陽を見極めれば、 全体のバランスをとることができるようになるという思想に発展します。これは、ある病証の虚実(陰性か、陽性か)の診断や、 “陽性の人は陰性の食物を採ったほうがいい”というような東洋医学の補瀉(ホシャ:おぎなう、とりのぞく)の療法の基盤へと 繋がります。
 陰陽2極性の例を、下記します。

−方向性−
末端
中心
−自然界−
西
−人間、人体−
外側 脊背 上部 六腑
内側 胸腹 下部 五臓
−病気−
躁(さわがしい) 強盛 温熱 乾燥 亢進 急性
衰弱 寒冷 湿潤 減退 慢性


●五行学説
 東洋医学において、陰陽学説と並ぶもう一つの基本的考え方になるものが五行学説です。昔の中国人は、大自然の営みを上記の 陰陽の2極性に分類した他、そのダイナミック(動的)な生成変化を5つの相に分別して捉えました。これを五行学説といって、 木・火・土・金・水という5つのシンボルで表現しました。この5つのシンボルはジャンケンを発展させたみたいに、相生、相克という 法則があります。 ジャンケンではグーはチョキに勝つ、チョキはパーに勝つ、パーはグーに勝つですが、木火土金水の場合は 下図のようになります。相生は木は火を生む、土は金を生む、という具合に各々を助ける働きがあり、相克は火は金を克する(支配する)、 金は木を克するという働きです。



 昔の中国人は、自然界をよく観察することで、様々な事物をこの五行にあてはめて解釈しました。主な分類を下記します。

−自然界と人体の五行−
五行
五季 長夏
五能
五気 湿
五色
五味 鹹(カン、しおからい)
五方 中央 西
時間 平旦(寅の刻 3〜5時) 日中 日西 日入 夜半
五音 角(カク)[ミ] 微(チ)[ソ] 宮(キュウ)[ド] 商(ショウ)[レ] 羽(ウ)[ラ]
 
五臓
五腑 小腸 大腸 膀胱
五官
五主 血脈 肌肉 皮毛 骨髄
五志
五声 哭(コク・なく) 呻(シン・うめく)
五変 (エツ) (ガイ・せき)
 
五神 意 智 魄(ハク) 気 精 志
五液 涎(エン・よだれ) 涕(テイ・なみだ) 唾(ダ)
五臭 羶(セン・なまぐさい) 腥(セイ・なまぐさい)
五有余 経溲不利(ケイシュフリ) 喝息
五不足 憂 悲 四肢不用 息利少気 厥逆
五畜
五穀 黍(ショ・きび) 稷(ショク・うるちきび)
五果 李(リ・すもも) 棗(ソウ・なつめ)
五菜 薤(ガイ・にら) 葵(キ・あおい) 葱(ソウ) (カク)
五役
五華 面色


●治療方法
(1)病気の捉え方と治療方法
 東洋医学は、人の機能も宇宙のダイナミズムの一部と考え、人がもつ各々の器官のバランスを整えていくことで健康な状態に戻すということを主体とする医学です。 東洋医学では、上述した陰陽学説と五行学説(統合して陰陽五行論という)をベースに、人の生理に関しても陰陽五行にあてはめて解釈しました。 五行の相生、相克といった相関関係は上の表で分類された生理的諸器官の機能的関係にそのまま応用されるので、肝(木)は脾(土)を支配し、肺(金)に支配され、 肝からは心の働きが生じ、腎が肝の働きを生じるというように解釈できます。この関係図を下記します。


◇注釈:この肝、脾、肺は、解剖によって明らかになった人の各臓器を指すのではなく、生理的機能単位という解釈で捕らえます。東洋医学の古典には、“肝は血を蔵す” というように記載され、これは“肝臓は身体の血液量を調節する”という現代医学における肝臓の生理的知見と一致する項目もありますが、“肝は筋を主る”、 “肝の状態は爪に反映する”など現代医学の医師からすればトンチンカンな記載もありますが、これは東洋医学における肝が、陰陽五行説をベースとした東洋医学の解釈における 生理的機能単位の働きを述べているからであり、現代医学でいう肝臓とは異なるからです。
 図で記したように、各々の臓腑はいつも一定の状態になく、関係する臓腑の働きによって補われたり、支配されたりして均衡を保っています。この均衡がとれた状態がいわば健康な状態です。
 東洋医学における病気とは、この均衡が崩れて臓腑で割り当てられた機能単位の働きが強すぎたり、弱すぎたりといった状態に陥ることと解釈されます。東洋医学による治療は、 例えば、その人の肝の機能が衰えている場合、肝を補ったり、腎を補ったり、また、肺を瀉したりすることでそのバランスを元通りの安定域に戻すというアプローチをとります。

 東洋医学における病気に対する基本的な考え方は上記の通りです。次に治療方法について触れます。治療法の基本的概念は、病証をみせる器官に対して補瀉のアプローチを 行うということは変わりませんが、その方法は当時の中国においてもその地方地方において様々でした。紀元前770年から西暦220年頃に複数著者によって書かれた「素問(そもん)」、 「異法方宜論(いほうほうぎろん)」には以下のような事が紹介されています。
@東の国は海に近く塩分の多い物を食するため、熱気を生じ血の流れが盛んになり鬱血症の患者が多かったことから、 石片を使い患部を切開して血・膿を出す治療法が発達します。(石のはじまり)
A西の国は高原地帯で寒冷のため厚着をして家の中にこもりがちで太りやすく、また精神的苦痛が大きく、臓器の疾患が多くなり漢方薬の治療法が発達します。
B南の国は、高温多湿で太陽光線が強いため皮膚のきめが荒くなり、麻痺、痛みなどが出やすくなり、現在広く普及している鍼治療のルーツがここで発達します。
C北の国は、寒冷地で遊牧民がテント生活をしているため体が常に冷やされるので、体を温める灸療法が発達します。
D中央の国は、気候・風土が穏やかで豊かな生活だが、あまり体を動かさずに食することから血のめぐりが悪くなり慢性の病にかかりやすく、このような体質に対し按摩・指圧療法が発達します。
 このようにして東洋医学として広く知られる鍼灸、按摩、指圧、漢方薬などが発展し、長い年月を経ても滅びることなく現在に至っているのです。

(2)優れた点
 東洋医学の優れた点について述べる前に、本HPの“体の健康について学ぶ”、“病気発生のメカニズム”において記載した項目について、少し思い出してみてください。
 私達、ヒトの体の仕組みを、その発生や進化のメカニズムから系統的に考えると、健康であるとは“すべての器官系がバランスよく機能して、私達個体(ヒト)を取り囲む環境に 適応している状態であること”と結論付けることが出来ました。また地球上における生物の営みは常に動的であり、@他生物との軍拡戦争、A環境の変化、B進化の継承などの諸要因を受けて “病気になって当たり前、完璧な健康はありえない”という結論でした。本章の文頭でも述べましたが、参考文献“人はなぜ治るのか(アンドルー・ワイル 著)”で、 著者は以下のように述べています。
―引用―
 <健康>とは<全体>である。すべてを包含し、すべてがほどよい秩序を保ってバランスという神秘な姿をとった、最も深遠な意味での<全体>である。 健康とは、単に病気でないということではまったくない。それは、人間を構成し人間をとり巻くあらゆる要素、あらゆる力が、ダイナミックに、かつ調和的に平衡状態にあることなのだ。

 これらを背景に考えると、東洋医学の基本思想はヒトの体内はもとより、それを取り巻く環境要素まで理論に組み込んだ他に類を見ない全人的な医学であるということが出来ます。 長い年月をかけて得た経験則を積み上げて、一つの系統的な理論を展開し、中国の大人口を何千年と支えてきた実績はとてもすばらしい事だと思います。

 東洋医学の特徴は、体内における<気(エネルギー)>のバランスに着目し、乱れがあればそれを補正することと記しましたが、このアプローチは病気を初期の段階で認識し 治療することを可能にしています。西洋医学では、血液検査、X線撮影などで異常と認識されるデータを認識して初めて治療を始めることが出来ますが、東洋医学においては 気のバランスの崩れの段階で病気にアプローチをかけることが出来るという大きなメリットがあります。参考文献の一つ、“人はなぜ治るのか”の著者であるアンドルー・ワイル氏は 東洋医学は真の予防医学としての重要な位置づけとして捕らえています。病院に行っても特に異常が見られないが、体がだるかったり痛みを伴ったりという不定愁訴症候群や、 数々の慢性疾患において、東洋医学の治療成果が報告されています。それも、体に対して極めてリスクの少ない、鍼、灸、按摩、指圧、マッサージ、漢方薬などで改善を導き出せることが 大きなメリットとして挙げることが出来ます。

(3)欠点
 一番の欠点は、東洋医学の理論が現代医学の基本となる現代科学の解釈で説明できないことです。現代医学では、誰もが目で確認できる科学の物差しを使って色々な機序を説明することが出来ますが、 東洋医学では科学の物差しで説明できない要素が多々あります。例えば、東洋医学的な機能単位である「三焦」や「心包」などは、西洋医学的な生理学では代替する器官もなく、 現代医学的に説明することはとても困難です。また、<気>の流れに関しても現代医学的に解釈できず、アロパシー医師からすればトンチンカン極まりない事象となります。 現在、特にアメリカを中心に東洋医学の様々な効能を科学的に解明する研究が行われており、色々な効能のメカニズムが明らかにされつつありますが、すべては難しいかもしれません。
 もう一つの大きな欠点は、東洋医学の理論体系に基づいて診断し、理論通の治療方法を導いて施術を行うためには熟練した技術と知識が必要なことです。 証(東洋医学的<気>の流れのバランスの判定)の判定を誤ることで、治療後の改善が芳しくなかったり、かえって調子が悪くなったりといったことも起こりえます。



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◆精神療法(シャーマニズム、マインド・キュアー、信仰療法)

 この節で紹介する治療法は“精神(心)”の領域で行われるもので、医療なのか宗教なのか明確に分類することが難しいものです。 筆者もこのカテゴリーに入る(全く同じ性質のものではないが...)治療法をご縁あって受けることとなりますが、 そこには患者の治りたい、生きたい、元気になりたいという強い思いと、そもそも私達に宿っている命の源、魂は何なのか? という非常に奥深い概念が秘められています。
 私もかつてはそうでしたが、科学を学んだ人、目に見える事しか理解しようとしない人、等等の現物主義の人たちにとっては、 “信じられない!”、“単なる幻想に過ぎない!”、“くだらない!”と思ってしまう治療法ばかりです。
 しかしながら、これら類の治療法は現在も確実に存在して、また現代医学では手の施しようも無い病状の人も救われたという事例が 現実に起こっています。本HPでは、参考文献“人はなぜ治るのか(アンドルー・ワイル 著)”において記載されている分類に従って 紹介していきます。

 

●シャーマニズム

 アンドリューワイル氏は、シャーマニズムは、[世界中の原始的な狩猟採集民族にみられる伝統的宗教]と定義しています。 医学史にも紹介されていましたが、この方法は人が高度な文明を有する前から病を治すために行われていた祈祷儀式の類になります。
 シャーマニズムは、シャーマン、呪術師、魔法医と呼ばれる人によって行われる治療です。シャーマン等は日常生活と精霊や 超自然力が宿る異界と媒介するために修行を行い、普通の人にはコンタクトすることが出来ない異界を訪れる能力を身につけます。 そして、打楽器、歌、踊り、また、幻覚剤を使って意識の世界から抜け出し、異界に宿る力から病気の治し方や薬の処方などの 指示を受けて患者に施し治療を行う訳です。
 日本に生まれ、日本に育った私にとっては到底信じられるものではありません。(筆者コメント:正確には、“でした”です。 自らの闘病を通じて、現在はこの治療方法も信じられないものではありません。むしろ、超自然力を信じることが出来ない“ヒト”という 種が愚かなのではと思ったりもします。)
 参考文献“人はなぜ治るのか”には、ワイル氏が実際に会って治療の様子を確認したジャングルの名治療師ルイス氏の治療や、 信頼のおける記録映画を参考にした吸出し医エシー・パリッシュ氏の治療が紹介されています。現代医学の医師であるワイル氏も、 治癒に至ったメカニズムは別として、“確かに治療能力がある”とその療法を認めています。

 

●マインド・キュアー

 マインド・キュアーは精神による治療というカテゴリーに入る治療法です。シャーマニズムのように幻覚剤や歌、踊りなどの 道具を用いずに、患者が持つ信念による治癒力を引き出して治療を行います。この治療法には沢山の流儀が存在しますが、 参考文献“人はなぜ治るのか”ではメアリー・ベイカー・エディー氏が創始した「クリスチャン・サイエンス」という流儀を 紹介しています。
 この治療法は、次のような根底理念を背景にしています。

・参考文献“人はなぜ治るのか” より部分抜粋
「神はまったき善と無限の力の源泉であり、神の意思にまっすぐに心を合わせる人間にはその力が使えるようになる。 実在するのは精神であって物質ではなく、物質は完全に精神に従属するものである。」

 この様に書くと難しいですが、自分なりのイメージで表現すると、[人の住むこの世の中は昔斬新なアクションで話題になった映画 「マトリックス」におけるマトリックスのようなもので、すべて人の心が描く幻想である。病気などの苦痛も、幻想の世界で味わう 幻想そのもので、想念を変革してしまい現実という幻想を根本から払拭してしまえばきれいさっぱり無くなってしまう。]というような 感じです。
 「クリスチャン・サイエンス」の創始者であるエディー氏は、前半生は病気の連続で色々な医療に救いを求めていたが、 彼女が40代の時に遭った不慮の事故で重症を負った際にこの根底理念を悟った。そして、ふとベッドから起き上がると怪我が 治ってしまっていた、という体験を通じてこの会派が創設されるに至ったそうです。ヒトが持つ信念の力がこの様な信じ難い結果に 繋がるのです。正に奇跡です。
 そんな馬鹿な話があるもんか!と思う方も多いと思いますが、この治療法によって重篤な症状が治癒に至ったという事例は沢山あるのが 事実で、参考文献でも「口腔の病気で口の中には穴が開き、顎の骨にはひびが入って膿瘍と肉芽が出来ていた」という状態で クリスチャン・サイエンスの治療を受けて数日で完治したという事例が紹介されています。これは、歯科医による治療前後の診断所見と 治癒証明というエビデンス(裏づけ)もとれた確固としたものです。 (文献:A Century of Christian Science Healing [Boston: Christian Science Publishing Society, 1966], 65-66)
 ヒトの潜在能力というのは、まだまだ未知の部分が多いことを痛感させられます。


●信仰療法

 前述のマインド・キュアーと同様に信仰療法もヒトの持つ信念の力を利用した治療法ですが、信仰療法における考え方は前者とは 大きく異なります。マインド・キュアーは宗教色は強いが、いかなる既成の教会や教義に固執しないという特徴を持つ一方、 信仰療法は様々な宗教に伴う儀式として行われているといった背景の違いがあります。
 信仰療法治療家の考える神は、マインド・キュアーで紹介したようなヒトが心の波長を合わせてくれるのを待っているような善意に 満ちた無限の力という抽象的な存在ではなく、これとは正反対に崇拝を要求し、助けを求める人に対してすげなくすることもある 人間的な神とのこと。この現実は、神と悪魔が戦う壮絶な戦場であり、ヒトは誤った想念の無辜(罪の無い)の犠牲者などではなく、 苦しみからの救済を願う存在である。よって、病気や苦痛、死は現実そのものであってすべては神の計画の一部であるというとても惨い 考え方です。
 それでも神様のご加護を求めて儀式において信念の力を引き出して病気を治すという考え方は、筆者もいいのだか悪いのだか判断に 困ります。しかし、この様な治療法においても治癒例は多々あるようです。
 本当に、ヒトの潜在能力というのはまだまだ未知の部分が多いことを痛感させられます。

 本節の最後に、参考文献においてワイル氏が心理療法についてコメントした一文を紹介したいと思います。

・参考文献“人はなぜ治るのか” より部分抜粋
 シャーマンやマインド・キュアー、信仰療法の施術者が往々にして見せる治療例は、すべて信念の力がからだに影響して、病気を改善、 あるいは回復させているという実例である。(中略) [病気を治す特別な力]が宿っているのは、自分以外の誰かや何か、 つまり治療師や霊場が、病気を治す力を与えてくれると信じる、患者側の信念の方なのである。

 この信念の力がどのようなものかとか、現代科学の物差しで測ろうとすることは大変難しいことだと思います。しかしながら、 この力は病気を治すパワーとなっていることは間違いなく、ばかげているとか、根拠が無いとかで受け入れられないという判断、 行為こそばかげていると思います。なぜなら、患者は病気を“治したい”のであって、方法はその目的を達成するための一手段に 過ぎないからです。

 

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◆心霊療法

 この節で紹介する治療法は、前節の精神療法同様に霊的、精神的な力を利用したカテゴリーに入る治療法ですが、 その治療で観察される現象は超常現象というべき正に霊魂の存在を否定できない摩訶不思議なものです。ここで紹介する事例は、 自分が小学校の頃にはやった心霊手術(科学的検証でいかさまと判明したもの[指を腹部に突っ込み患部の肉片などを出すといった類]) ではなく、医師による科学的検証がなされ、効果を認めざるを得ないものです。
 参考文献“人はなぜ治るのか”には、以下の2つの事例が紹介されています。筆者も後者については、昔テレビの特番で特集を 組まれていたのを見た覚えがあります。なんともミステリアスな内容につばを飲んだ記憶が残っています。

(1)エドガー・ケイシー(1877〜1945年)  −眠れる予言者−
 エドガー・ケイシーは、催眠に入ってトランス状態になると、通常意識では知りえない知識や知見を得ることができるという 特殊な能力を持っていたそうです。彼は助けを求めに来た人々に対し、自ら催眠状態に入ってリーディングをし、リーディングをした 内容を口にするという方法で解決策を告げるという方法で依頼人を救済していました。また、催眠状態から元に戻ると自ら口にした 内容は一切記憶になかったそうです。
 彼は、小学校しか卒業していない学歴ながら、病気の依頼人に対して特殊な食事療法、マッサージ、医薬品などの指示を出し、 最終学歴小学校卒では考えられない専門用語を駆使したり、あるホメオパシー医に医学知識を試されて「人体にある最短の筋肉は?」 という質問に正確に回答するなど、尋常では考えられない能力を発揮したとのこと。彼の処方した薬剤は医学的にも正確なものが多く、 それによって救われた人も多数にのぼるという記録があるそうです。当時、彼は「眠れる予言者」としての盛名をほしいままにした とのことです。
 彼がトランス状態においてコンタクトしている世界は“霊界”というべきか... 説明や証明することができませんが、 とにかく私達に超常の世界の存在を知らしめるものだと思います。

(2)ゼ・アリゴー  ―錆びたナイフの手術師―
 ゼ・アリゴーは1971年に49歳で交通事故死したブラジル人の心霊医です。彼は、無学で分盲に等しかったようですが、32歳の時に 第1次世界大戦で戦死したドイツ人医師のフリッツ博士の霊が宿って心霊医として治療を始めるようになり、晩年には1日に数百人の 患者を診る治療家になったとのこと。彼は、耳の中で囁く声に従い治療行為をするだけと説明をしたそうですが、治療に必要な一切の 医学知識や、彼が毎日行っていた外科手術の手順は、この囁きが教えてくれるという信じがたいものだったようです。 (文献:John G. Fuller, Arigo: Surgeon of the Rusty Knife [New York: Thomas Y. Crowell, 1974] フラー・J  「錆びたナイフの奇蹟」笠原敏雄訳 日本教文社 1985)
 彼の診察は、問診もせず、患者と1分も向き合っていればどこが悪いか診断がついてしまい、薬剤の処方をしたり、 また外科手術も行ったそうです。彼の処方はアメリカの医師による調査によりその大半が正規処方だと認められ、文盲同然の人間が 行える範疇のものではなく、彼の説明通りすでに亡くなったフリッツ博士の霊魂が彼の体に乗り移っていることを信じざるを得ない 状況だったとのこと。
 また更に驚くべきことに、彼の行う外科手術は現在の医療の常識では考えられない不衛生な場所で、不衛生な器具を使い、 消毒も麻酔も使わないという中で行われ、例えば白内障の手術では、彼のポケットナイフを無為造作に患者の目に突っ込むと眼球が ナイフの圧力で手前に突出し、ナイフを引き抜くとそこに不透明な水晶体が付着しているというものだったようです。
 正に、奇蹟としか言いようがありません。 こんな不思議なことがこの世の中では現実に起こっているのです。

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◆ホリスティック医学

 参考文献“人はなぜ治るのか”では、ホリスティック医学運動は[1970年代にアロパシー医学の<過剰>と<欠如>に対する 批判として、主に現状の医療に不満を持つ患者たちが代替療法を求めていることを察知したアロパシー青年医師たちによって 推進されはじめた]と記載されています。
 そもそも、ホリスティック(Holistic)とはホーリズム(Holism)の形容的な造語で“全体性”のことです。この全体とは、 生物学的、化学的、社会的、経済的、精神的、などなど、私達を取り囲む(関連する)すべての事を指しています。本HPの 「■第2章 生物、人間を学ぶ」や、 「■第4章 病気発生のメカニズム」において、 宇宙が創世して生物が誕生し我々ヒトに進化した背景や、その進化を起こす環境においてなぜ病気になるのか?ということについて 概要をまとめましたが、私達が病気になってしまうという原因を突き詰めていくと、ある臓器が機能低下した云々という話ではなく、 必ず私達を取り囲む環境、生活に何らかの変動が起きて、その結果で臓器が云々という事象に繋がっているということになっている訳です。
 ホリスティック医学とは、病気になったということに対し、ただその病気の症状に対症するのではなく、その病気になった患者さんを 取り囲む生活、環境についても改善を図るなど、本章で紹介した治療方法や、紹介していない更に広い分野の治療法を取り入れて、 患者にとって最良の治療を目指すというものです。
 よって、ホリスティック医学を推奨する病院においては、アロパシーはもちろん、ホメオパシー、東洋医学、気功(本HPでは、 この治療はどのカテゴリーに分類していいかわからないので特に触れていません。私の個人的な意見としては、精神療法に入るのでは ないかと思いますが...[全体を考える東洋医学においても気功は取り入れられています]。)など、多岐にわたる治療法の選択肢があります。
 日本でもまだ数は少ないですが、ホリスティック医学を取り入れている病院はあります。“NPO法人日本ホリスティック医学協会”がその普及の推進役となっているようです。

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参考文献
・人はなぜ治るのか (アンドルー・ワイル 著 上野圭一 訳  日本教文社)
 原著:HEALTH AND HEALING (written by Andrew Weil)
・医療概論 (中川米造 監修  医歯薬出版株式会社)
・東洋医学概論 (社団法人 東洋療法学校協会 編  医道の日本社)
・生理学 (佐藤優子、佐藤昭夫 他著  医歯薬出版株式会社)
・究極の免疫力 (西原克成 著  講談社インターナショナル)
















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